アラサーのドキドキ

そんな必死の思いで仕事をして、ようやくお昼になった。

 

 

いつも通り、加奈子とランチをするため席を立つ。

 

 

すると、その瞬間ユリカちゃんの甘い声がした。

 

 

 

「佐伯さぁ?ん!!ランチご一緒しませんかぁ?」

 

 

まさかのあのユリカちゃんが、佐伯涼を誘っている。

 

 

隣のデスクにいる永倉はびっくりした様子。

 

 

誘われたのは自分じゃなくて、佐伯涼なんだもんね。

 

そりゃ、びっくりするよ。

 

 

 

「え…俺…ですか?」

 

 

「そうです?佐伯さんと、いろいろお話してみたいんですぅ」

 

 

 

そうか…。

 

確かに、この間の金曜日、飲み会の席で、ユリカちゃんは佐伯涼のことカッコイイ!て言ってたもんな。

 

 

あれ本気だったのか…。

 

 

 

どうするのかな?

 

二人でランチ、行くのかな?

 

 

 

気になっているつもりはないのに、なぜかその場を動けず、私の耳はダンボ状態。

 

 

こんなの、少しも私らしくない。

 

 

さすがの草食系男子でも、社内でナンバーワンに可愛いユリカちゃんの誘いは断らないでしょう。

 

しばらく様子を見ていた。
すると、

 

「あー…あの、俺、今まだ仕事残ってて。すぐランチ行けそうにないんだ」

 

 

資料を手でまとめながら、にっこりと笑顔で断る佐伯涼。

 

 

断られたことにショックを隠しきれないユリカちゃんは、ほっぺたをぷくっと膨らませた。

 

 

「佐伯さん、ひどいっ!仕事って言ってもお昼休みずーっと仕事しているつもりですか!?だったら、わたしここで待ってますけど??」

 

 

すごいグイグイいくよなぁ…。

 

どうする、佐伯涼。

 

 

だんだん実況のような気持ちでその光景を眺めていると、後ろのほうから加奈子の声がした。

 

 

「琴美ー!ランチいくよー!」

 

 

時間切れ。

 

佐伯涼とユリカちゃんのランチが気になるけど、もう行かなきゃ。

 

 

「今いく!」

 

 

そう言って私は今度こそ席を立つ。

 

 

 

しかし、その瞬間。

 

「あ!石原さん!」

 

と、佐伯涼に呼び止められる。

 

 

 

驚いて振り返る私。

 

 

「今日、午後一で打ち合わせあったよね?早めに戻ってきてね!12時40分には、下のロビーで待ち合わせね」

 

 

打ち合わせ?

 

そんなの、ないはずだけど…。

 

 

そう思って佐伯涼をみると、じっと私の目を見つめて何かを訴えているようだ。

 

 

ユリカちゃんも一緒になって私を見つめる。

 

 

あ…断る口実ってことかな?
仕方がない…

 

佐伯涼の嘘に乗っかってあげるか。

 

私は、佐伯涼をまっすぐ見つめて目だけで笑う。

 

 

「了解。そっちも遅れないで来てね」

 

 

そのまま加奈子の待つ、出入り口へ小走りになった。

 

 

ユリカちゃんの顔をみるのが怖かった。

 

 

こんな嘘に乗ってあげるなんて全然自分らしくない。

 

 

私…どうしちゃったんだろう。

 

 

おそーいという加奈子の文句を聞きながら、心臓がドキドキしていることに気がついた。

 

 

今日…やっとまともに話せた。

 

佐伯涼がこっちを見ていた。

 

 

それだけで何故だか鼓動が高鳴っている…。

 

 

 

27歳、アラサー。

 

 

久々に、なんだろう?このドキドキは。

 

 

気にしない、気にしてないよ…と

 

そう自分に言い聞かせて、私はかなこの隣を歩く。